1960年代後半から70年代にかけて国際的な脚光を浴びた〈ニュー・ジャーマン・シネマ〉と呼ばれるドイツ映画の新しいムーヴメントは、1988年に公開されたヴィム・ヴェンダースの『ベルリン 天使の詩』のヒットにあやかるかたちで日本においても注目を集め、ヘルツォークやジーバーベルクといったドイツ人監督の名前がにわかに人口に膾炙した。その後、ヴェンダースの低迷に踵を揃えるようにして影を潜めていった感のある〈ニュー・ジャーマン・シネマ〉であるが、最近になって、とりわけ1982年に37歳の若さで急逝したライナー・ヴェルナー・ファスビンダーに対する関心が高まっている。その先鞭をつけたもののひとつが中原昌也による再評価(『ソドムの映画市』洋泉社、2001)であり、その後、2002年にファスビンダーの15時間半に及ぶ記念碑的な代表作『ベルリン・アレクサンダー広場』(1979/80)のマラソン上映会が開催され、翌年にはアテネ・フランセ文化センターでファスビンダーの特集上映が行なわれたほか、2005年には『ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーDVD-BOX』第I・II巻(紀伊國屋書店)が発売。さらに、論文集『ファスビンダー』(渋谷哲也+平沢剛編、現代思潮新社、2005)も刊行されるなど、ファスビンダーが短い生涯のなかで遺した計45本の作品は、いま日本において改めてアクチュアルなものとして認知されているといえるだろう。
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ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー |
註
★1──Juliane Lorenz, »Retour zum „Alexanderplatz“«, in: Booklet von Rainer Werner Fassbinders Berlin Alexanderplatz-Remastered (DVD), Süddeutsche Zeitung Cinemathek 2007, S. 14.
★2──1986年にファスビンダーの母リーゼロッテ・エダーによって創設されたRWFFは、ファスビンダーの遺産と上演権を一括管理する財団法人であり、とりわけ92年よりRWFFのリーダーを務めているユリアーネ・ローレンツのもとで『ベルリン・アレクサンダー広場』リマスター・プロジェクトを主導するなど、ファスビンダー作品の普及のために精力的な活動を繰り広げている。もっとも、ファスビンダーの後期の作品の編集を担当し、私生活上の最後のパートナーであったユリアーネ・ローレンツに対しては、ごく最近、女優で元妻のイングリート・カーフェンによって、ファスビンダーの伝記事実の「改竄」について激しい非難が浴びせかけられるなど、ファスビンダーの遺産を独占しようとする傾向にたいして批判があることも付言しておく。
| 竹峰義和 Yoshikazu Takemine 1974年生。表象文化論、ドイツ思想史、映像メディア論。武蔵大学ほか非常勤講師。アドルノ、ベンヤミンを中心に、フランクフルト学派の思想におけるテクノロジー・メディアの位置づけを問い直す作業をつづけている。著書=『アドルノ、複製技術へのまなざし──〈知覚〉のアクチュアリティ』(青弓社、2007)。共著=『美のポリティクス』(御茶の水書房、2003)。論文=「『国民的精神』の招喚」など。 |